遷延性意識障害との脳死にはどんな違いがあるの?

意識が戻らない場合

遷延性意識障害と脳死の違いは? 東かがわ市中筋 W様

6月2-1

【質問】
息子が交通事故に遭い、1ヶ月たっても意識が戻りません。
医師からは遷延性意識障害の状態と言われたのですが、脳死とはどこが違うのでしょうか?

W様(東かがわ市中筋)


弁護士からのアドバイス

東かがわ市中筋のW様、ご質問ありがとうございます。

『遷延性意識障害』と『脳死』は、一見すると患者は昏睡状態であるため見分けがつきませんが、医学的には似て非なるものになります。
遷延性意識障害と脳死の両方とも、脳に大きなダメージを受けていることには変わりないのですが、障害を負った脳の箇所が違います。

脳は大脳・小脳・脳幹に大きく分類され、さらに大脳は前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉に分けられ、細かく分類していくと終脳・間脳・中脳などもあります。
脳はそれぞれの場所で、記憶や視覚・言語・思考など役割分担があるのですが、その中でも重要なのが脳幹です。
脳幹は多数の生命維持機能を担っているため、他の脳の部分が無事であっても脳幹が機能しなければ死んでしまいます。
逆に脳のほかの部分が機能していなくとも、脳幹が機能していれば生命維持は出来ます。

遷延性意識障害では『脳の大部分が機能していないが、脳波があり自発呼吸をしており、脳幹は機能している状態』、一方脳死は『脳の大部分が機能しておらず、脳波は平坦で自発呼吸できず、脳幹が機能していない状態』をさします。
『脳波はあるが自発呼吸が出来ない』、『脳波は平坦であるが自発呼吸をしている』といった場合には、脳死と断定するのが難しいです。
つまり、遷延性意識障害であれば自発呼吸をしているので、栄養補給や衛生面に気を付ければ生き続けることができますが、脳死の場合は生命維持装置なしでは生きることが出来ず、生命維持装置を外した時点で死亡してしまいます。

では、『脳幹が機能していて自発呼吸をしているが、意識が無いのであれば遷延性意識障害か?』と問われると、少し違います。


6月2-2

日本脳神経外科学会による遷延性意識障害の定義では、
1.自力移動が不可能である。
2.自力摂食が不可能である。
3.糞・尿失禁がある。
4.声を出しても意味のある発語が全く不可能である。
5.簡単な命令には辛うじて応じることもできるが、ほとんど意思疎通は不可能である。
6.眼球は動いていても認識することはできない。
上記の6つの症状が治療をしているにもかかわらず3か月以上継続していることが条件となっています。

つまり、上記の状態に陥っても3か月が経過していないと、遷延性意識障害と正式に診断を下すことが出来ません。

また、脳梗塞など意識不明の状態の原因が分かっている場合、例えば脳梗塞で治療中や治療により改善が見込める場合には遷延性意識障害とは診断されず、『脳梗塞が原因の昏睡状態』と診断されます。
そのため、遷延性意識障害は『脳やその他の体の部位の状態が安定していて、治療しているにもかかわらず、意識を取り戻さない』といった状況で、診断が下されることがほとんどです。

東かがわ市中筋のW様の場合も、『交通事故から治療をしていて、容態は落ち着いてはいるものの意識を取り戻さない状態』であるため、遷延性意識障害の6項目に該当していて、長期に続く場合には遷延性意識障害と正式に診断をするといった意味合いで医師は伝えられたのであると思います。

事故に遭われた当事者が脳死や遷延性意識障害となられた場合には、自身で加害者と示談交渉を行えないため、遷延性意識障害と診断が下りた後に家庭裁判所に成年後見人の手続きを取る必要があります。
成年後見人のみが遷延性意識障害患者の代わりに加害者との示談交渉を行えるため、避けて通れない手続きとなるので、詳しくは弁護士に相談をするとよいでしょう。

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