保険会社が遷延性意識障害患者の生活費を認めてくれない場合には

意識が戻らない場合

遷延性意識障害患者の生活費は認められない? 高松市香南町池内 B様

7月4-1

【質問】
交通事故で遷延性意識障害となった息子の生活費を、保険会社が認めません。
保険会社は「寝たきりなので、生活費はかからない。」と譲らないのですが、生活費は認められないのでしょうか?

B様(高松市香南町池内)


弁護士からのアドバイス

高松市香南町池内のB様、ご質問ありがとうございます。

交通事故の示談による生活費とは、通常死亡事故の被害者の生活費をさします。
例えば、月収30万円で妻と子供が2人いる男性が、死亡したとします。
男性が亡くなったことで月収30万円がなくなったので、妻などの遺族は月収30万円分の逸失利益を相手方に請求できるかと言うとそうではありません。
30万円の中には、死亡した男性の生活費が含まれているため、死亡したことで発生しない生活費まで損害賠償をしなくても良いという法律の考えから、逸失利益から生活費を差し引く『生活費控除』がなされます。

生活費控除は死亡した被害者の家庭内での経済的な立ち位置などで変わりますが、上記の例でいうと30%の生活費控除がされます。
つまり30万×(100%-30%)=21万円が、月収入の逸失利益の計算の元となります。

遷延性意識障害患者の示談でも、生活費控除の議論があります。
被害者に対して支払う立場である加害者や保険会社は、「健常者のような生活を送っているのではないから、生活費は必要ない。」と、逸失利益から生活費控除を行うことを主張します。

一見すると正しいかもと思える主張ですが、裁判所の判例では全面的な生活費控除を行うことは否定しています。
遷延性意識障害とはいえ生きているのですから、パジャマなどの衣服は必要になります。
自宅で介護をしているのならば、室温のコントロールのためにエアコンも使いますし、電灯もつけるため、患者のための電気代がかかります。
そのため、裁判所は「患者が遷延性意識障害の状態であっても、生活費は必要。」と判断します。


7月4-2

しかし、「『全面的な』生活費控除を行うことは否定しています」と表示したように、まったく生活費控除を認めない訳でもありません。
例えばスマホ料金は使う事が出来ないので必要が無いですし、会社への交通費も通勤が無いため不必要となります。
そのため、判例でも全面的に生活費控除を否定するものもあれば、一部生活費控除を認めるものもあります。

B様の場合、保険会社が全面的な生活費控除を言ってきているのであれば、判例に基づいて反論が出来ます。
ただそうなると、保険会社は生活費の一部を否定する方針に変えてくると思われますので、生活費控除の割合に対してもめることになると思います。

先ほど、死亡事故の場合の生活費控除は30%と記述しましたが、月収30万円ならば生活費控除は9万円になるため、「1万円の生活費控除ならば、9万円と比べたらまだマシかな?これで示談がまとまるのならば、手を打った方がいいかも?」と思ってしまう方もいるかもしれませんが、そうではありません。
月に1万円ですが年間に換算すれば12万円になりますし、基本的には67歳まで働けたとして計算されるため、若い年齢の遷延性意識障害患者ほど、逸失利益が減額されることになります。

仮に遷延性意識障害となった夫が40歳で、生活費控除を1万円認めた場合、
1万円×12か月×18.327(ライプニッツ係数)=219万924円の逸失利益が減額になる事になります。
もし、2万円や3万円ならば、単純に2倍3倍の逸失利益の減額になるため、大きな差が生まれてくるのが分かると思います。

B様の夫の給料や生活費における出費の内容によって、生活費控除を全くしない方か、いくらか生活費控除を行う方が適切なのかが変わってくるため、はっきりとは回答しにくいので、弁護士に相談をして適切な額を計算してもらう方が良いでしょう。

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